いつも待ち合わせた店のいつもの席で
給料の三ヶ月分 なんてふざけて
おもちゃの指輪をカウンターに置いた
小さなガラスのダイヤモンド きみは
ちょっと微笑って薬指にはめた
きみの住む部屋の窓の外には
百萬ドルとかいわれてる夜景
全然たいしたことなんかないのに
僕が言うと 薄いカーテンを曳いて
近すぎるのよって きみは庇った
飲みすぎた夜にだけ手をつないで眠った
怖い映画がきみは好きだった
別に平気だけどあまり見たくはない
そう言うと きみは意地悪な眼をして
そんなビデオばかり山ほど借りた
明け方の街を見下ろしたベランダ
乗り出す僕を見て 危ないって
本気で怒ったくせに
下を歩いてる人の頭に何か落っことしてやろうよ
振り向いたとたん
ひやっとするほど背中を叩かれた
遠い遠いむかしの あれは
ポケベルの数字でメッセージを伝えた頃の
ベルリンの壁が崩れて間もない
遠い遠いむかしの なんでもない話
いつでもは会えない その理由は訊かない
きみの楼閣の暗黙のルール
風邪をひいて熱を出したとき
料理なんて初めてよって 出来上がった
あやしいお粥に僕らは笑った
遠い遠いむかしの あれは
電話が鳴るたび期待に胸を震わせた頃の
世界地図の上から大きな国が消えていった
遠い遠いむかしの なんでもない話
飲みすぎた夜にだけ手をつないで眠った
だから僕はいつでも どれだけだって飲んで
もっと飲みすぎた夜には どうしてだろう
涙が出て 涙が出て
行かないで 行かないで
きみの胸で ただ そう繰り返した
絶対っていうなにかは絶対にあると信じていた
遠い遠いむかしの なんでもない話