鬼が出る、蛇が出る

全部ウソだったんだろって
口の中だけで繰り返す
さっきから 眼が合うたび逸らす
それでも 普段と変わらない表情で

鍵をくれたり キスをくれたり
他の囁きやなんかも
今日でなかったことになるんだろって
それでも 声に出来ないまま

睨む視線を 頬に感じながら
きみは何を考えてる
言い訳のひとつもしてくれずに
何本目かのタバコに火を点ける

来るときは電話してねって
言ってた理由はこれなんだろ
さっき 送り出したひとが誰なのか
そんなの 聞きたくもないけど

慌てるとか 泣き出すとか
こういう場合するんじゃないの
なのにきみはもう20分も黙って
タバコを吸ったり消したりして

なにか言ったら って
やっと声にした言葉は やっぱり震えた

鬼が出るか蛇が出るか
心臓が 口から飛び出す
覚悟だけなら出来ても
僕からはそれを 言いたくないよ

覚悟だなんて所詮は
長続きしない 強がりなんだけど

全部ウソだったんだろって
繰り返しながらもだんだん
もしかして ひとつかふたつくらいなら
このまま きみといたいなんて思いだす

黙ったままで 少し微笑んで
僕の心を見透かしたように
頬にくちづける甘いくちびる
ああもう 両手を挙げるよ

鬼が出るか蛇が出るか
ああいつも きみの甘いくちびる