知らず

きみを
思ったりはしない

酔い痴れて
誰になのか
ささやかな誓い
また破って

組み上げた
パズルを崩す

また一から
嵌め込むんだ
忘れるために
また思い出して

繰り返す夜
欲しいものだけを
なんとか忘れて

だけど同じさ
よく似た微笑みに
振り返ってしまう

何処まで 追うんだろう

知らず
空に高く銀河

酔い痴れて
白い息で
僕の好きな
きみの好きだった

古い恋歌
覚束ない足で
海岸通を

初めてきみと
朝まで波を見た
モザイクの桟橋

風に絡んだ髪
水面で揺れたネオン

何処まで 追うんだろうね

知らず
空に凍る銀河

夏の手前のパラソル

この手を取って
ねえお願いさ
ただ頷いてみせて
地下への階段で

細いヒールを響かせて
微笑んで

この手を取って
秘密の箱の中へ
ただ頷いてみせて
午后の陽を避けて

2国の長い赤信号
待ちかねて

欠伸をひとつ、ふたつ
夏の手前のパラソル

いまが
これが
永遠でいい

この手を取って
ねえお願いさ
ただ頷いてみせて
いまメロディが鳴る

2国の長い長い赤信号
駆け出して

ファンファーレみたいなクラクション
夏の手前のパラソル

いまが
ここが
永遠がいい

ねえ
微笑んで

ねえ
好きよ って

ねえ

菊水山で、愛を叫ぶ

夏の空いっぱいに
すきだって叫んだ
目を閉じて
風に耳を澄ませた

電波塔と全身を
収めようとするから
両方遠くなるのは
仕方がないんだって

言っても聞かない
じゃあもういいって
カメラを取り上げて
台座に腰を下ろした

夏の青いっぱいに
心は散乱する
目を閉じれば
あの日の湧き立つ雲

もう誰も乗り降りしない
忘れられた駅
イノシシの親子だけが
たまに待っているんだって

真に受けないよ
そんないつもの嘘
真に受けたりしないよ
その悪戯な瞳

最後に
菊水山で愛を叫ぼうって

真に受けたりしないよ
涙目で笑って

夏の空いっぱいに
すきだって叫んだ
これっきりの
思い出だってキスして

夏の青いっぱいに
心は散乱する
目を閉じて
聞き取れなかった囁き

目を閉じて
風に耳を澄ませた

dead end

やっぱりって
ダッシュボードに置いた
イニシャルを
刻んだ銀の指環

ごめんねって
どしゃ降りのあの道
目一杯
踏み込んだアクセル

危ないから ワイパーをまわしてって
きみは言うけど

どのみち僕には この先なんて
何も見えやしないんだよ

泣き顔で
精一杯微笑んで
無理をして
やさしく僕を抱いて

呟きは
雨音で聞こえない
振りをして
きみは僕を抱いて

このまま 遠い何処かへならって
きみは言うけど

そこへなら 僕はひとりでいい
ひとりきりで行けるんだよ

行き止まりの午後
ただ
恋をした午後

どしゃ降りの
あの道
踏み込んだアクセル

危ないから ワイパーをまわしてって
きみは言ったけど

どのみち僕には この先なんて
何も見えやしないんだよ

どのみち僕には この先なんて
何もありはしないんだよ

遠い冬の海沿いの駅

電車をもう
2本も見送って

プラットホームの端
降ったり止んだりの雪
紺色のピーコート
悴んだ指先
俯いたままの横顔

短く揃えた
襟足に北風

マフラーをしていたらな、って
繰り返し夢にみる
遠い冬の
無声映画のなか
動いているロープウェイ

見下ろした海より
はしゃぐ笑い声と

ねえねえ、って指した
ガラスに当たった爪と
その抑揚と
春の花のような
シャンプーの香りと

触れそうになるたび
揺れに逆らって

何度も逸らした肩
回転展望台の下で
雨になるかなって
眺めてた空
ずっとすきだったんだ、って

電車をもう
2本も見送って

プラットホームの端
降ったり止んだりの雪
紺色のピーコート
悴んだ指先
俯いたままの横顔

まだその情景を覚えているのか、と

繰り返し夢にみる
遠い冬の
海沿いの駅
もう恋はしないと

電車をまた
2本見送って