いつかの雨の、夜の2国の

さよならを心に隠して
きみは何でもない顔して

ルーフを叩く雨の音が
古い恋の歌を掻き消す

濡れた髪もかまわず
シートに凭れて口遊む

それは聞き取れないのか
僕が聞きたくないのか

この先の信号を右へ
次のカーブを曲がれば

色も音も無い海に
貼り絵の船だけが浮ぶ

もう何度となく
繰り返したのに

口づけも躊躇いも
初めてみたいに

たった一言で
ほんの一瞬で

沈黙の意味は変わると
知っていたから

願いも約束も
未来もこれきりも

上手く嘘にして
いつもみたいに笑って

すれ違うヘッドライトに
光の粒が弾けて踊る

きみの左目と僕の右目に
光の粒が弾けて踊る

2021/04/23

 

知っていた
その匣の
封印を解いたら

閉じ込めた
夕立と
短い口づけと

そのあとの
青空も
涙も

ごめんね と
動いた唇も

何一つ
受け止められないと

知っていた
同じ言葉でも
違う心だと

知っていた
どの物語でも
ずっと脇役だったと

2021/04/18

 

過去を思う
未来を思う
パラレルの
世界を想う

生を思う
死を思う
三叉路の
果を想う

悪にも
善にも
倦んで
膿んで

仮想の
仮装の
空間の
亡霊の

声も聞ず
姿も見ず
身一つで
身勝手に

季節の端に
昼夜の隅に
いまも潜む
きみを詠う