遠い冬の海沿いの駅

電車をもう
2本も見送って

プラットホームの端
降ったり止んだりの雪
紺色のピーコート
悴んだ指先
俯いたままの横顔

短く揃えた
襟足に北風

マフラーをしていたらな、って
繰り返し夢にみる
遠い冬の
無声映画のなか
動いているロープウェイ

見下ろした海より
はしゃぐ笑い声と

ねえねえ、って指した
ガラスに当たった爪と
その抑揚と
春の花のような
シャンプーの香りと

触れそうになるたび
揺れに逆らって

何度も逸らした肩
回転展望台の下で
雨になるかなって
眺めてた空
ずっとすきだったんだ、って

電車をもう
2本も見送って

プラットホームの端
降ったり止んだりの雪
紺色のピーコート
悴んだ指先
俯いたままの横顔

まだその情景を覚えているのか、と

繰り返し夢にみる
遠い冬の
海沿いの駅
もう恋はしないと

電車をまた
2本見送って