晩夏

なつかしい夢で目を覚ます
淡い余韻に胸を熱くする
うそみたいだね それだけで
こんなにも 涙が出るなんて

小麦の肌を鳶色に変えて
よく似たふたり 意地っ張りなひとみ
恋の意味も知らずに

駆け抜けた 海沿いの道を
宵闇の風の中を
夏の花の種を盗みながら
夏の花をちぎりながら

ポケットに詰めて 泣いたり
笑ったりした頃をおもう
きみと 最後の

打ち上げた花火 赤や青や黄色の
照らされて ただ 手をつないだ晩夏

片手にさえ余りそうなほどの
きみといた日々 意気地無しな若さ
失くして知る初恋

夕間暮れ 焦げたタールの匂い
はためく白いTシャツ
夏の雨にすべて消されていく
夏の雨が通り過ぎていく

なつかしい夢で目を覚ます
淡い感情が胸を締めつける
うそみたいだね まだいまも
こんなにも 涙が出るなんて

たった一言が どうしても言えなくて
石を蹴り 石を蹴り もてあました微熱

打ち上げた花火 赤や青や黄色の
照らされて ただ 手をつないだ晩夏